木版摺美術画 ~華やかで艶のある暁斎と、心がゆるりとほどける是真。あなたの部屋に飾るなら?

木版摺美術画

目次

店内にディスプレイされた、ひときわ目を引く美術画の正体は……

あなたも、ひと目で恋に落ちてしまうかもしれません。

日本橋にある榛原のお店で、友人・カナコと待ち合わせ。「両親へのプレゼント選び」というミッションのお手伝いをするためです。カナコの両親は二人暮らし。来年から東京と長野で二拠点生活をスタートするそう。東京の自宅をベースに、週末や長期休暇にはセカンドハウスとして購入した長野の家に滞在し、自然とふれあいながら生活しよう、という計画です。

「毎日の暮らしがワクワクするようなものを贈りたいな。でも、ギフトってけっこう難しいのよね」とカナコ。だいじょうぶ。それなら任せて。榛原には、美しいものや心が和むものなど、暮らしを彩るアイテムが揃っているから……という流れで、こうして一緒にお店を訪れたのです。

「わぁ、お店の外観やデザインもすてきね」榛原の店舗は、和紙の「色硝子(いろがらす)」文様をモチーフに、伝統技術と現代技術を融合した「3Dカワラブリック」による、モダンでスタイリッシュな建物です。「雁皮紙(がんぴし)榛原」と書かれたのれんをくぐり、店内に足を踏み入れてすぐ、カナコは急に立ち止まりました。目の前にディスプレイされた絵をじっと見つめています。

その絵とは……幕末から文明開化期に活躍した人気絵師・河鍋暁斎(かわなべきょうさい)が榛原のために描いた『牡丹』という図案を木版摺りにした美術画でした。

「はいばら木版摺美術画プロジェクト」でよみがえる、200年の技術と鮮やかな色彩

榛原では現在、創業200年の伝統と技術を現代につなぐ、「はいばら木版摺美術画プロジェクト」というサステナブルな取り組みに力を入れています。

先ほどからカナコが見つめている『牡丹』も、同プロジェクトから誕生した傑作です。作品の世界観にどっぷり浸っているカナコの熱意が伝わったのか、お店のスタッフさんがそばにやってきて、「木版摺美術画ができるまで」をわかりやすく解説してくれました。

「木版摺りは、さまざまな職人たちの手仕事の連携によって作られているんですよ。まず、紙漉きの職人が木版摺りに適した和紙を漉き上げます。次に、絵師の描いた図案をもとに、彫師が色ごとの版木を彫り分けます。さいごに摺師が一色ごとに顔料を摺り重ね、一枚一枚、手作業で作品を仕上げていきます」。

和紙職人、絵師、彫師、摺師。職人たちの巧みな技から生まれた、奇跡のような美術画

『牡丹』の場合、ベースになっている和紙は、福井県越前市で作られた「越前生漉奉書」と呼ばれるもの。太くて長い繊維を特徴とし、木版画に最適な「楮(こうぞ)」を100%使用しているそう。職人さんの手で一枚一枚、丁寧に漉きあげられた和紙を、銀杏の木でできた板に張りつけて乾燥させると、しなやかな強さと柔らかな肌合いをもつ和紙ができあがります。

次は、彫師さんの仕事。版木に使用するのは、木目が細かく、加工性の高い「山桜」です。木の節や木目の方向などを確認しながら、大小さまざまなタイプの刀やノミを使い分け、暁斎の版下絵をもとに、丁寧に彫っていきます。『牡丹』の図案は、ぜんぶで14色なので、空摺りの図案も含め、15面もの板を彫っているそう。筆で描かれた繊細な質感を版木によみがえらせる、高い技術が求められる仕事です。

版木ができあがったら、摺師さんの出番。14面の版木の一つ一つに顔料を広げて和紙に丁寧に摺りこみ、色を重ねながら作品を仕上げます。技法は江戸時代と同じですが、彩度は現代に合わせて調整するなど、色彩の鮮やかさや美しさに、徹底的にこだわっているそう。『牡丹』には、構図全体を描く黒い輪郭線がありません。そのため、色板を同じ位置にぴたりと重ねるための手がかりがなく、摺師さんは試行錯誤しながら、難易度の高い摺りに挑んでいるのです。

部屋にディスプレイするなら、華やぎの暁斎? 温もりの是真?

じつは、「はいばら木版摺美術画プロジェクト」で、カナコが気になっていたのは、河鍋暁斎が描いた『牡丹』や『菊花』の復刻バージョンだけではありません。幕末~明治に活躍した漆工・画家、柴田是真の作品にも関心を寄せていました。柴田是真の木版摺美術画には、『踊鯛』『鶴』『あやめ』など6つの図案があり、榛原が代々受け継いだ版木を利用して制作されたものだそう。

うーん、暁斎にするか、是真にするか。悩む気持ちはよくわかります。暁斎さんの絵は、艶があって華やかで、ディスプレイされた空間ごと、絵の世界観に彩られるような感覚に包まれます。一方、是真さんの絵は、何気ない日常の一場面や風景を、やさしい眼差しで切り取ったもの。シンプルだけど、心がゆるっとほどけるような温もりを感じます。

日本だけでなく、海外のお客様からの注目度が高まっています!

榛原の店頭では、私たちだけでなく、さまざまな年代のお客様が「木版摺美術画」の前で足を止め、その美しさや奥深さに魅了されているようすが見られました。

江戸期から連綿と受け継がれる技術、木版摺りならではの色彩の美しさ、繊細な手仕事から生まれる表情の豊かさは、国や世代を超えて人を惹きつけるのでしょう。スタッフさんによると、日本人のお客様はもとより、近年は海外のお客様からのお問い合わせが増えているそうです。

さて、榛原の店頭で「木版摺美術画」に恋をしたカナコは、その後、姉妹とお金を出し合って、ご両親に暁斎の『牡丹』をプレゼントしました。さっそくリビングルームの壁に『牡丹』をディスプレイしたご両親は、美しい木版摺りが演出する、豊かな日常を楽しんでいるそうですよ。


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この記事を書いた人

小川 こころ

文筆家、ライター、文章講師。「文章スタジオ東京青猫ワークス」代表。

人やものが織りなす物語やかけがえのない瞬間を、ことばや文章で伝えることに情熱を注ぐ。手書きが好き、紙モノ大好き。新聞記者やコピーライターを経て現職。まなびのマーケット「ストアカ」にて4年連続アワード受賞。著書は『ゼロから始める文章教室 読み手に伝わる、気持ちを動かす』(ナツメ社)。

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