和紙・千代紙 ~華やかでポップな“芸術品”を、日常にとりいれてみる

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プレゼントに温かな気持ちをプラスする、千代紙ラッピング

行きつけの酒屋さんで見つけた、おいしい赤ワイン。自宅でゆっくり味わいながら「そうだ、お世話になった知人にもプレゼントしよう」と思いつきました。
さっそく購入したものの、お店の包装紙のままでは、ちょっと味気ない感じ。なにか、簡単で印象的なラッピング方法はないものか……。

そこで思い出したのが、榛原のスタッフさんに教わった、榛原千代紙を用いたラッピングです。その方法は、じつに簡単。赤ワインの色合いにぴったりのシックな柄の千代紙を選び、ワインボトルにくるっと巻いて、その上から好きなリボンを結ぶだけ。こんなに手軽なのに、華やかさや温かみが幾重にもプラスされ、心のこもったすてきなプレゼントになりました。

紙(神)は細部に宿る。上質で美しい、榛原の「和紙」。

榛原千代紙は、鮮やかな色彩の模様を色刷りした和紙のこと。
そう、千代紙の魅力を語るなら、まずは和紙を知ってから。というわけで、榛原の代名詞ともいえる「和紙」に注目してみました。

1806年の創業以来、一貫して和紙を取り扱ってきた榛原。江戸時代から現在に至るまで、上質で美しい「粋」な和紙を全国各地から取り揃えています。
伝統的な和紙の原料は、雁皮(がんぴ)、三椏(みつまた)、楮(こうぞ)などの植物。表皮のすぐ下にある薄皮を剥ぎ、煮てやわらかくしたり、叩いて繊維をほぐしたり、さまざまな工程を経て、職人さんが一枚一枚、手漉きをし、乾燥させます。
まさに「紙(神)は細部に宿る」、ていねいな手漉き作業によって植物の繊維が複雑に絡み合い、見た目の美しさと強靭さを備えた質のよい紙ができあがるのです。

中でも、繊細でなめらかな質感の「雁皮紙(がんぴし)」は、筆がスッとすすみ、きれいな文字が書けると江戸っ子たちの注目を集め、当時の大人気商品に。「雁皮紙榛原」の名前は一躍有名になりました。

奉書紙は「大切なことを伝える」ための和紙

榛原の店内を見渡すと、雁皮紙、画仙紙、越前紙、美濃紙……いろいろな種類の和紙があることに気づきます。

いくつか手に取ってみると、きめが細かく、さらっとした紙肌のもの、つるんと光沢があるもの、そぼくでやさしい風合いのものなど、表情や個性が異なっていることを発見。
「近年は、シンプルな奉書紙をお求めになるお客様が多いですね」というスタッフさんのことばに、「ホ、ホウショシって、なんですか?」と思わず聞き返す私。

「奉書紙は、大切なことを伝えるための和紙です。“ほうしょがみ”とも呼ばれます」と、目の前で実物を見せてくださる、やさしいスタッフさん。
おお、なんと美しい、凛とした和紙でしょう。強くてしなやかで、品があって……これは、ただものではありません。聞けば、中世から近世にかけて、幕府の公文書などに使われていた、格式の高い和紙だそう。「命令するための書」ということで「奉書」と呼ばれるようになったようです。

現代でも奉書紙は、「大切なことを伝える」という役割を受け継いでいます。
祝詞や弔辞を書き記したり、お祝いのお金やお香典を包んだり、熨斗紙として用いたり、私たちの暮らしのさまざまな場面で活躍しています。

草花や吉祥文様、幾何学デザインなど、華やかな色合いが揃う「榛原千代紙」

さて、和紙の魅力を実感したところで、あらためて千代紙を見てみると、和紙のクリエイティビティの高さに驚かされます。
江戸時代、大量生産が可能な印刷技術が進み、千代紙は庶民にも広まっていきました。当時の人たちは、お気に入りの千代紙を玩具の紙人形に使ったり、小箱や筒に貼ったり、好きなかたちに折ったり、さまざまな方法で楽しんだそう。一般の人だけでなく、将軍・大名家からの依頼で「御留版」と呼ばれる家独自の紋様を、榛原が千代紙で製作していた、という記録も残っています。

現在、榛原のお店で販売されている、鮮やかでポップな色合いの榛原千代紙は、明治~大正時代に生まれた、榛原のオリジナルデザイン。当代きっての人気絵師だった河鍋暁斎(かわなべ・きょうさい)や川端玉章(かわばた・ぎょくしょう)をはじめ、多くの作家が下絵のデザインを手がけています。

絵師が描いた下絵をもとに、染職人が和紙に色を重ねると、千代紙のできあがり。多色摺りの場合、色の数だけ版が必要となり、それぞれの色がずれないように、手作業で慎重に染めます。多くの染料が紙にのることにより、現代の機械印刷には出せない、深い色合いが楽しめるそう。
華やかな千代紙には、職人たちの技や心意気がたっぷり詰まっているのです。

「飾る・眺める」だけでなく、「使う」楽しさを日常に

菊の花をモチーフにした人気柄の「重陽」、榛原の店舗の外装にも用いられている、幾何学的なデザインが印象的な「色硝子」、貴重な型紙の図案を復刻した「風待草」――。「榛原千代紙」の美しいデザインを眺めているだけで、ワクワクしてしまう。きっと、そう思っている人は多いでしょう。以前の私も“眺めるだけ”でした。

「千代紙ってすてきだな、と思ったら、鑑賞だけにとどめず、ぜひ、日常のいろいろなシーンに取り入れてみてください。使うことで、千代紙の新たな魅力が見つかりますよ」とほほ笑む、榛原のスタッフさん。
最初に紹介したワインボトルのラッピングのように包装紙にしたり、好みの柄をブックカバーにしたり、空き箱に貼ったり、額に入れてインテリアとして飾ったり、使い方次第でアイディアは無限に広がります。

日本の美しさを伝える“芸術品”ともいえる、千代紙。暮らしの中に取り入れ、使ってみることで、毎日がより楽しく、より愛着のあるものになるはずです。

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この記事を書いた人

小川 こころ

文筆家、ライター、文章講師。「文章スタジオ東京青猫ワークス」代表。

人やものが織りなす物語やかけがえのない瞬間を、ことばや文章で伝えることに情熱を注ぐ。手書きが好き、紙モノ大好き。新聞記者やコピーライターを経て現職。まなびのマーケット「ストアカ」にて4年連続アワード受賞。著書は『ゼロから始める文章教室 読み手に伝わる、気持ちを動かす』(ナツメ社)。

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