榛原の便箋 ~西郷隆盛も愛用した、気持ちが伝わる“粋”な便箋

便箋

目次

希望なし、心が折れっぱなしの私に届いたもの

福岡から上京したころ、小さなアパートで独り暮らしをしていました。
当時の私は大学を卒業したばかりの20代前半。舞台役者を夢見て、日中は映画撮影所に付属する俳優養成所に通い、夕方からはアルバイトを掛け持ちする日々でした。

幼いころから演劇や映画の世界に夢中だった私は、「人が人を演じること」、つまり「ことばと動きと表情を通して、人の心を伝えること」に魅了されていたのでしょう。学生時代には、観る側だけでなく、演じる側や脚本の執筆に携わることもありました。

しかし、憧れの世界に足を踏み入れてみると、現実は想像以上にハードで、脚本のようにドラマチックな展開は一向に訪れません。希望なし、お金なし、心が折れっぱなしの毎日から逃げ出したくなったとき、福岡の実家から宅配便が届きました。

便箋のやさしい色、罫線の風合い、インクのにじみ。

荷物には、お米や果物、お菓子などの食料品のほか、一通の白い封筒が入っています。封筒の中には、母の手作りアクセサリーとともに、クリーム色の便箋が。手書きのメッセージなんて珍しいと思いながら、畳まれた便箋を開くと「お誕生日、おめでとう!」の大きな文字が目に飛びこんできました。

そう、その日は私の誕生日。けれども、不安や焦りばかりの日々で、ハッピーな気持ちにはとうていなれません。そんな私の思いに気づいていたのか、母の手紙には、近況報告のほか、こんなことばが綴られていました。
「だんだん寒くなってきましたね。あなたが生まれた、日差しの心地いい日のこと、今でも懐かしく思い出し、感動で胸がいっぱいになります」。

母にとっては、何気ないメッセージだったのかもしれません。でも、それから自分を見失いそうなことがあるたびに、何度も何度も読み返すほど、私にとって、大切な手紙になりました。年月を重ね、便箋はボロボロになりましたが、そこに綴られた文字の一つひとつ、インクのにじみ具合、クリーム色の便箋の風合い、罫線の色や太さまで、今も鮮明に覚えています。

便箋 ピンクリボン

西郷隆盛が勝海舟に宛てた手紙の便箋は「榛原」製だった!

手書きのことばを綴った手紙には、人の心に寄り添う力があります。たとえ、すぐに駆けつけられなくても、一緒に笑ったり泣いたりできなくても、ちゃんと書き手の体温とことばを伝えることができる、大きな存在だと思うのです。
私が便箋を選ぶときのポイントは、「シンプルで書き心地がよく、手書きの字に自信がなくても、気持ちを伝えてくれること」。この条件に、しっかりマッチしているのが、榛原の便箋です。

榛原の便箋は、昔から多くの偉人や文豪たちに愛されてきました。
たとえば、近年発表された論文では「西郷隆盛が勝海舟に宛てた手紙に、榛原の便箋が使用された」ことが明らかになっています。明治維新の立役者である両者の交友関係は、西郷が西南戦争で没するまで続いたといわれています。シンプルで粋な榛原の便箋が、二人の絆を深めるための重要な役目を担っていたのかもしれません。
また、榛原の便箋は、小泉八雲や志賀直哉、森鴎外など、多くの文人たちにもご贔屓にされていたそうです。

便箋 NO.1
便箋 NO.6
便箋 NO.5
便箋 NO.9
便箋 NO.15

榛原便箋の定番は、どんな場面でも対応可能な「ナンバー便箋」

現在販売されている、榛原便箋の中から、おすすめのラインナップを紹介しましょう。
まずは、100年以上も前から多くの人に愛されている、榛原ロングセラー商品の「ナンバー便箋」。この呼び名、どうも正式名称でなく、愛称のよう。商品名に「ナンバー」がついた榛原定番の便箋シリーズを「ナンバー便箋」と呼んでいます。

たとえば、洋紙に紺色の罫線入りで、万年筆やボールペンと相性のよい、スマートな表情の「便箋NO.1」。同タイプで、太めの黄色い罫線がやわらかな明るい雰囲気を醸し出す「便箋NO.5」。四国の和紙に落ち着きのある灰色の罫線を入れ、筆やボールペンに適した「便箋NO.17」。同タイプで、レトロな佇まいの茶色の罫線が入った「便箋NO.15」など。

慶弔などのフォーマルな場面、親しい相手へのカジュアルなメッセージ、インクのにじみ具合がいい感じに出る和紙タイプ、にじまない洋紙タイプなど、使う人の目的や好みに応じて選べるのが、人気の理由なのでしょう。

便箋 ブルーリボン
便箋 ピンクリボン

佇まいが美しい「ブルーリボン」や、文豪気分で執筆できる「日乗箋(にちじょうせん)」も

次に紹介するのは、ありそうでない、ユニークなスタイルの「便箋 ピンクリボン」と「便箋 ブルーリボン」。どちらも、和紙をヨコにした縦書きタイプの便箋で、どんなメッセージにも使いやすい、茶色の罫線が入っています。
この商品の特徴は、製本されていないこと。「ピンクリボン」は、30枚の便箋の外側に、桜色を思わせるピンク色のリボンが巻かれています。そのようすは、さながら金封に結ばれた“水引”のような佇まい。「ブルーリボン」も、同じように、パステルブルーのリボンが品よく巻かれています。書きやすさはもちろんですが、美しい便箋と向き合う時間がなんとも心地よく、文豪になった気分で筆がすすみます。

文豪の気分といえば、そう、この便箋を語らずにはいられません。商品名は、「『日乗箋』榛原製 青色十行罫紙 B5サイズ」。明治~昭和期に活躍した作家・永井荷風は、日記文学の最高峰とされる『断腸亭日乗』を執筆する際に、榛原製の罫紙を使っていたそう。

現在発売されている『日乗箋』は、荷風が使っていた紙のデザインを復刻したもの。活版印刷のレトロな藍色が味わい深く、荷風になった気分で日々の日記を綴ってもよし、便箋としてだれかに手紙を書くのもよし。
スタッフさんから「日乗箋を二つ折りにして、お好きな千代紙を表紙にし、それらを綴じて“マイノート”を作っていらっしゃるお客様もいますよ」と、素敵な情報を教えていただき、ワクワクしながら使い方を想像しています。
榛原の便箋は、すべて“名入れ”することが可能だそう。名前入りの便箋を使うと、テンションが上がり、文豪気分もより盛り上がりそうですね。

そういえば、その後、役者修行に見切りをつけ、「書くこと」におもしろさを見出した私は、紆余曲折を経て、新聞記者やコピーライターを経験し、現在もふわふわと文筆業を営んでいます。あのときの母の手紙は、今も大切な宝物です。

「日乗箋」榛原製 青色十行罫紙 B5サイズ

記事で紹介した商品

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この記事を書いた人

小川 こころ

文筆家、ライター、文章講師。「文章スタジオ東京青猫ワークス」代表。

人やものが織りなす物語やかけがえのない瞬間を、ことばや文章で伝えることに情熱を注ぐ。手書きが好き、紙モノ大好き。新聞記者やコピーライターを経て現職。まなびのマーケット「ストアカ」にて4年連続アワード受賞。著書は『ゼロから始める文章教室 読み手に伝わる、気持ちを動かす』(ナツメ社)。

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