【秋を愛でる】和紙のハガキと古民家カフェ

四季の暮らしと榛原
2022.09.27

10月も半ばになると来年の年賀状に備えてか、「このたび転居しました」のハガキが届き始める。その一方で、「主人は永眠いたしました」とのショッキングなハガキも届く。育ててもらった元上司やいつも親切にしていただいた取引先の担当の方の訃報は身につまされる思いだ。ご家族宛にハガキでも出そうかと思ったが、内容が内容だけになかなか良い文章が浮かばない。その人との思い出が頭の中を駆け巡り、まるで片付かない部屋の中で彷徨っているみたいだ。

そうだ、こんな時は、郊外の行きつけのカフェに行こう。向かったのは、新宿からJR中央線で90分のところにある青梅市沢井の古民家カフェだ。気分がすぐれない時や考えに煮詰まると、ここを訪れる。

ちょうど秋なので、紅葉はもちろんのこと、沢井は柚子の里でも有名だ。
そうそう、出すハガキは官製ハガキでは味気なさすぎる。日本橋の榛原で買ったハガキにしよう。最近、日本橋は再開発が進んでいるので、雑誌でもちょくちょく特集が組まれている。新し物好きな私が日本橋を散策して偶然みつけたお店が榛原だった。和紙で出来ている小物が置いてある。そこで見つけたのが、このハガキだ。
和紙で作られているので、ハガキの端がデコボコしており手作り感があって、あたたかい感じがする。裏面には、文字が邪魔にならない淡いピンク色の花がちりばめられている。
文章を考える場や道具の設定は大事な要素だ。なんだか書けるような気がしてきたぞ。

10月の後半は紅葉がきれいな季節だ。沢井駅の一つ先の駅、御嶽駅からの御岳山は紅葉狩りで平日にもかかわらず混雑している。しかし、沢井は人影も少なく穴場だ。古民家カフェに着く。早速コーヒーを注文し、あれこれ考えを巡らせる。まったりと時間が流れていく。時空が違うのか。環境を変えると雑念が消え集中できるようだ。

ふと、庭に目を移すと赤く色づいた、もみじの木が。つられて庭に出てみる。一面に紅葉の葉が。そうだ、老人ホームに毎日暇を持て余している母に、季節の贈り物として葉を送ろう。が、適当な入れ物がないことに気が付いた。庭から店内に戻ってカバンの中を探ると、メモ帳が手にあたった。そうそう、装丁がきれいな上に、サイズも邪魔にならないお手ごろサイズだと思い、榛原で衝動買いしたものだった。この手帳に紅葉を挟むのはどうだろう。表紙の赤い装丁とマッチしていて、このまま部屋に飾って季節を感じてもらうのも一興だ。
そんなこんなで、ちょっと一息入れたところで、部屋に戻って一気にメッセージを書き上げた。

夏の盛りには青々とした紅葉の葉も、秋になれば赤く色づき、やがて落ち葉となって地面に色どりを添え土に代わってしまう。人の人生もそれと同じだなと感慨にふけると同時に、いろいろな方に指導していただいたおかげで今の自分がいるのだと実感する。
これまでお世話になった方々との思い出が幾重にも去来する、秋深まる一日になった。

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この記事を書いた人

渡辺宏

総合不動産会社をリタイヤ。某NPO法人でボランティアとして参画。シェアオフィスの運営にも従事。有機栽培の農業にも手を出し、現役時代並みに忙しい毎日を過ごす。リタイヤと同時に保育士資格を取得するも、オルタナティブ教育に興味を持ちその方面に進出すべく企画中。趣味は山の森が好きで、登山やロゲイニング、トレランなどを楽しんでいる。

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