【夏を愛でる】最上級のお礼

四季の暮らしと榛原
2022.10.12

わたしの夏に海は欠かせない。

子ども時代はもちろん、40代も半ばを過ぎた今にいたるまで、海に行かなかった年は片手で数えられるほど。
今年も新潟の海に息子と一緒に行ってきた。

わたしが初めて行ったのは2才のとき。
年に一度、8月のお盆前になると、母の実家の盛岡に1週間ほど帰省していた。
その時おじが、私と母と姉を連れて、毎年岩手の三陸海岸に連れて行ってくれた。

祖母の家から海までは、3時間のドライブだ。
リアス式の起伏豊かな海岸線の森林のみどりと、切り立った茶色い岩肌。
夏の日差しが照らす、青緑色のグラデーションが神秘的な海。

民宿の目の前の道路を渡り、階段を降りればもう砂浜だ。
夜に見上げた漆黒のそら、白く大きくせまりくる星の輝きに、畏怖の念を抱いた。

僕にとってかけがえのない幼少期の思い出は、
まちがいなく叔父や祖母と過ごした岩手の夏だ。

笑顔で出迎えて一緒に遊んでくれたおじは、
私にとってもう1人の父親だった。

しかし、私が大学生になるころには、盛岡に行くことは少なくなった。
そして祖母が亡くなってからは、とんと。
年賀状のやりとりもいつの間にかなくなってしまった。

今、改めて考えると、面と向かって「ありがとう」とおじにお礼を言った記憶がない。
時間がたってしまったから、いまさら電話では“こっぱずかしくて”言えない。
そんな時、「手紙を書いてみよう」とひらめいた。

言葉では直接伝えにくい気持ちを、文章なら、きっと伝えることができる。
手書きの文字には、その人の魂と想いが込められている。

メールやSNSも便利でいいけれど、やはり手書きの手紙は温かい。
いただくと分かるのだが、たとえ“たった一言”だとしても、
読み手に驚きと笑顔を与えてくれるのだ。

手紙を書くにあたり、日本橋本店限定の「“犬張り子”の切手付き絵はがきセット」
と「蛇腹便箋」で迷ったが、今回は便箋で書くことに決めた。

榛原の「蛇腹便箋」は、折り目ごとにミシン目がついていて、
好きなところで切れるから重宝している。
長くなってもページを増やせるし、仮に文章が短くても
「書ききらなきゃいけない……」なんて“みがまえる”必要がないのだ。

「榛原便箋」の中でも、とくに「花あそび」レターセットに心惹かれる。
4枚1セットで描かれる山吹や木蓮の、黄色とピンクと緑の水彩画のような淡い色使い。

もらった方はもちろん、書いている私の気持ちも晴れやかにしてくれる。
こちらの柄は、幕末から明治期にかけて販売されていた、榛原絵巻紙の中の
“花あそび”のデザインがもとになっているという。

さて、気持ちを整えて筆ペンで便箋に向かう。

「暑い日が続きますが、元気でやっていますか。
今度、息子を連れて行きます。」

そんな、たわいもない文章といっしょに海の写真も封筒に入れ、切手を貼り、
アスファルトから湯気が出るような炎天下、ポストに向かう。

きっとおじも僕のように驚き、喜んでくれるだろうか。
ちょっと照れ臭いけど、そんな淡い期待を込めて、ニヤニヤしながら投函する。
「つぎは誰に手紙を出そう?」
面と向かって伝えられなかった、めいっぱいの感謝の気持ちを添えて。

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この記事を書いた人

井上知樹

ライター。
ものづくりサラリーマンから、50社への応募のすえ、コピーライターに転身。インタビュー記事や動画のシナリオ、たまに声優もこなします。『若者を考えるつどい2022』エッセイコンテストにて奨励賞を受賞。「観る側じゃなく、演じる側に」がモットーで、音楽にも再チャレンジ中!ハムカツとロックを愛する、歌う共感ライター。

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