「日中の最高気温は35度です」。
天気予報を聞きながら、窓の外をジっと見る。キラキラまぶしい夏の光が降り注ぐ。まだ朝なのにレベル「強」、すでに暑そうだ。
仕事が休みの土曜日、所要があり出かける予定だが、この暑さに尻込みしてしまう。
さて、支度するかな。紫外線カットが施された桜のような淡いピンクの長袖カーディガンに袖を通し、姿見の前に立った。まだ気温が低い春先に、夏に着ようと思って買っておいた新しいカーディガンだ。
「これじゃ暑苦しい」。
鏡に映る姿に、思わず出た言葉。この淡いピンクでは、今日の猛暑に立ち向かえない。
すぐに淡いグレイの長袖カーディガンに着替え、ようやく落ち着いた。こんな暑い日は、かわいらしい色合いよりは、涼しい色合いだ。
私たちの周りにある“色”は、冷たく感じる色と、暖かく感じる色、そして温度を感じない色に分類できる。このピンクは淡いけれども、夏には暖かく感じる色となる。淡いグレイはどちらかというと冷たく感じる色に近い。
色の寒暖を感じることは、色彩心理効果のひとつ。うまく使えば「涼」を感じることができる。日本人が得意とする生活の知恵だ。
涼し気な色味はいくつかあるが、「ジャパンブルー」と呼ばれる藍色が「粋」で特に気に入っている。なので、夏に使う小物は、藍色が入っているものを選びがちだ。ただ、濃い色ほど重く感じる心理効果もあるため、藍色単色使いはお勧めしない。
重さを感じさせない色、例えば、白や淡い水色と掛け合わせたほうが、より清々しい配色になる。使う色と配色面積のバランスが大事なのだ。
夏小物の中でも最近よく使うようになったのが、白地の木綿を藍色で染めた手ぬぐいだ。乾きやすくハンカチより使い勝手がよいので、出かけるときに持ち歩くようになった。注染(ちゅうせん)と呼ばれる伝統的な技法で染められている榛原製品の手ぬぐいを愛用しているが、表も裏もきれいに「色硝子」の柄が染めてあり、藍色と白の対比でとても美しい。
「色硝子」という柄は、明治大正期に発売されていた千代紙がもとになっている。沼に自生する菱の実を紋様化したものらしいが、大小の格子がまるで箱根細工のようで、趣があり「涼」を引き立てている。
余談になるが、「色硝子」が気に入ってしまい、ちょっとしたお礼状を書くための便箋や、メモ帳もこの柄があしらわれたものを使っている。
涼しい色合いで身支度も整い、夏のおでかけ3点セットの日傘、サングラス、そして手ぬぐいを籠バッグに入れて、玄関扉を開けた。まぶしい光がジリジリと肌を刺す。慌てて日傘を開き、サングラスをかけた。
それにしても暑い……。
暑いけれど、四季の中でキラキラした夏が一番好きで、「色」と「柄」を楽しんでいる。