【夏を愛でる】“新しいバッグ”で菖蒲園へ

四季の暮らしと榛原
2022.10.21

よし、今からやろう。

何年もクローゼットの奥に仕舞ったままの籐の籠バッグを引っ張り出してきた。
浴衣に合わせるよう買ったのだが一度も使っていない。でも洋服にもしっくりくるし夏らしい装いになりそうだ。この籠バッグのための巾着を、先日出会った粋な手ぬぐいで縫おう。そして明日菖蒲園へ持って行くのだ。

手ぬぐいの巾着は以前にも作ったことがある。極めてシンプルな作りで何も難しいことはない。ただアイロンをかける手間が要る。だからこそ、今のこの勢いを逃してはならない。

“青海波にうさぎ”という古典柄。白地に紺と明るい水色のうさぎが跳ねているのが氷を浮かせたカルピスのようでなんとも涼やかだ。真夏に使いたいと思って買ったが一足先に梅雨空の下でも活躍してもらおう。

まず、全体にアイロンをかけてから半分に折る。次に紐を通す部分を折って、そこにもアイロンをする。両端の紐通し口を縫ったら両サイドも縫う。マチを作るため底の角をそれぞれ三角に折って縫い付ける。紐を通したらできあがりだ。思ったとおり茶色の籠バッグによく映える!

ところでこの巾着は作るのに一度も鋏を入れない。糸を抜けばまた元の手ぬぐいに戻る。とにかく早く乾くので布巾やハンカチにしてもいいし、ティッシュケースとか何か別のものを縫ってもいい。なかなか“サステナブル”だ。

『かきつばた』の絵はがきを眺めながら、昨年初めて行った菖蒲園の思い出に浸る。
京成本線・堀切菖蒲園駅から徒歩10分。地図を見ながら「ほんとにこっちでいいのか?」と住宅街を歩く。ふと見上げると、フェンス越しの鮮やかな菖蒲たちが目に飛び込んできた。あまりに現実離れした美しさだったので「実はフェンスの向こうはあの世で、中にいる見物客は気づかないうちに世を去った人々なのでは」とすら思った。勿論そんなことはなく、入り口には段差もないし入場無料だ。

フリルのような花弁の愛らしいものから、キリリとした濃い青紫の誰にも媚びぬ女王のような花まで百花繚乱。いつまででも眺めていられる。『町娘』『朝の露』『小町しぐれ』など名付けた人の夢と努力を感じさせる品種名も鑑賞ポイントである。

水路に鴨が潜ったり出たりしているところを見知らぬご婦人と眺め、「かわいいですね」と言葉を交わした。今年は誰かに「あら、その巾着素敵ね」とか話しかけられて、「これ昨日ちゃちゃっと縫ったんですよ」なんて答えたい。

新しいバッグで出かけるのは心が浮き立つ。じめじめとした梅雨時に訪れた心の晴れ間。季節を喜べる自分を少し好きなる。

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この記事を書いた人

古尾 らいと

ライター。
20代の時は抗うつ剤を飲みながら官庁街で働いていたが、40歳の現在は漢方を飲みつつ書類管理などをして元気に細々暮らしている。趣味は公園と喫茶店めぐり。昭和の香りのする話を読んだり書いたりするのが好き。最近はミシンをかけるのと鎌倉に行くことに妙にハマっている。

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